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2016.10.03
受動喫煙と肺がんに関する国立がんセンターの発表とJTのコメント

 2016年10月1日の朝日新聞朝刊で「受動喫煙肺がんリスク論争」と題して、8月31日に発表された国立がんセンターの”受動喫煙による日本人の肺がんリスクを「確実」とする評価”を疑問視するコメントを出した日本たばこ産業(JT)に対する国立がんセンターの反論が取り上げられていた。

 ことの経緯は、本年8月31日に国立がんセンターが日本人における受動喫煙と肺がんとの関連についてのシステマティック・レビュー及び9本の関連論文のメタアナリシスの結果から、従来の受動喫煙による肺がんのリスクを「ほぼ確実」から「確実」へ変更することを発表したことから始まった。

 国立がんセンターによるこの発表が出された同日に早くも日本たばこ産業(JT)は、この発表を疑問視するコメントを社長名で発表した。

 そして今回、9月28日に国立がんセンターが「受動喫煙と肺がんに関するJTコメントへの見解」と題して、JTの社長コメントに反論するという異例の事態となった。

 そこで日本統計技術研究所では、国立がんセンターの発表の裏付けとなるシステマティック・レビュー及び9本の関連論文のメタアナリシスの結果およびJTのコメント内容を二日間かけて検証した。

 結論としては、国立がんセンターが行ったシステマティック・レビューは国際的なコクラン共同計画のガイドラインの手法に準拠したものと考えられた。その結果抽出された9本の関連論文も夫の喫煙における妻の受動喫煙の研究結果が多い(すなわち女性の肺がんリスクの研究が多い)ものの、メタアナリシスの結果として受動喫煙による肺がんの日本人の相対リスクは統計学的に有意に1.3倍高くなることを示していることは間違いない。

 これに対して、JTは本研究結果だけをもって受動喫煙と肺がんの関係が確実になったと結論づけることは困難であると反論している。また、肺がんによる死亡者の絶対数を取り上げて差が少ないことを強調しているが、科学的ではないことは明白であろう。

 9月28日の国立がんセンターの見解は、統計学的かつ論理的な構成で述べられており、「JTのコメントは受動喫煙の害を軽く考える結論に至っている」とする内容はまさにその通りであると考えられる。

 医薬品の製造販売も行っている日本たばこ産業(JT)は、社内に優秀な生物統計家を抱えており、8月31日の国立がんセンターの発表に対して、社長は同日に反論を述べているが、時間的に見ても社内の生物統計家を交えた十分な議論を尽くした上での社長コメントなのか疑問が残るところである。築地市場の豊洲移転問題ではないが、健康に害がある可能性を考えれば、煙草を専売する企業として慎重にかつ謙虚に対応することが求められるであろう。